運動生化学 大森研究室

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運動生化学 大森研究室  体育系A棟302号室

 研究テーマ

 

生理・生化学的指標に加えて心理学的指標も用いて検討し、研究の目的に応じて人間や動物を対象に研究を行っています 

▶運動が糖質・脂質・蛋白質代謝に及ぼす影響とその統合的理解


 

 長時間にわたる運動を行うと疲労現象が現れますが、競技パフォーマンスを上げるためには、この疲労現象に抗う必要があります。それではそのためにどのような手段があるのでしょうか? トレーニングによる身体的適応はその一つですが、サプリメントを有効に利用することによっても疲労を遅らせることができます。
 
 大森研では、「長時間運動に伴う血糖(脳のエネルギー源)の低下がタウリンを摂取することで抑制される」という研究を行っています。我々は、タウリンによる血糖低下の抑制が運動時間の延長をもたらすという動物実験モデルを確立しました。この現象のメカニズムとして、肝臓でのグリコーゲン分解や糖新生が関わっていると考えています。同時に、運動時の骨格筋や脳への糖取り込み・利用について究明したり、脂肪組織を含む各臓器にわたる糖質・脂質・蛋白質の代謝を統合的に理解していくことが、これからの興味深い課題です。
 
 このほかにも我々は人間を対象にした研究で、高強度運動時に骨格筋で産生されるアンモニアが脳の疲労因子として働く可能性を、加算作業成績の低下から示唆しています。また、低・中強度の長時間運動により、血中の遊離トリプトファン(脳内セロトニンの材料)が上昇することを示し、加算作業成績との関係性についても検討しています。このように、「運動と代謝」という研究テーマは、競技力の向上に寄与することはもちろんのこと、生活習慣病の予防や治療など、その応用範囲は広いと考えています。

 

▶スポーツ競技における筋疲労・脳疲労とサプリメントの効果

 我々は、高い強度や長時間におよぶ運動を行った後に現れる筋肉痛が、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)やタウリンを摂取することで緩和されるという興味深い現象について研究しています。 BCAAはどのようなタイミングで摂取すれば良いのか? 運動の前なのか、それとも後なのか? あるいはBCAAとタウリンを組み合わせるとどうなるのか? 痛みのメカニズムは違うのか、同じなのか? 興味は尽きません。
 
 競技スポーツだけではなく、健康や楽しみのためにスポーツを行う人にとっても、 筋肉痛が緩和できるとなれば、さらなるモチベーションのアップに繋がるでしょう。

▶トレーニングの効果が記憶されるメカニズム<マッスルメモリー>


 

 競技力の向上、健康の維持・増進、疾病の予防・改善などに筋力トレーニングが有効であることは広く知られています。筋力トレーニングによって筋力は増加しますが、そのメカニズムは筋の肥大や神経系の適応(新たに使われるようになる神経の増加)です。
 
 トレーニングをしなくなる(脱トレーニングになる)と筋力は低下していきますが、それでは再びトレーニングを開始するとどうなるのでしょうか?以前のトレーニング経験は無駄になってしまうのでしょうか?実は再トレーニングすると、筋力増加応答の増強や速やかな筋力回復が見られるのです。我々はこれまで、この事実を証明してきました。現在さらなるメカニズムの解明に向けて研究を重ねています。
 
 マッスルメモリーについて研究が進めば、怪我でトレーニングできない時期やシーズンオフ期のトレーニングの在り方に一石を投じることになるでしょう。また宇宙時代を迎えた現在、飛行前のトレーニングを考える礎になるに違いありません。

 

▶トレーニングによる筋肥大とそのメカニズム


 

 筋肉を肥大させることの意義を考えてみると、まず競技力の向上が頭に浮かびます。基本的には、筋量と筋力は比例するからです。また、日常生活の中で自ら動いたり物を動かしたりする場面でも、筋量に裏打ちされた筋力は必要不可欠です。この事は、筋量・筋力が低下していく高齢者の場合を考えれば、容易に想像できるでしょう。さらに、トレーニングによって筋量が増え、代謝活性が上がることで余分な脂肪が燃焼しやすくなります。つまり、生活習慣病の予防や改善に繋がるのです。こうしたことから、トレーニングによる筋肥大のメカニズムを解明することは大変重要であることが分かります。
 
 筋肥大のメカニズムの一つとして、熱ショック蛋白質72(Heat Shock Protein;HSP72)が関与すると言われています。トレーニングは、筋蛋白質の合成量を増加させることで筋の肥大をもたらしますが、同時に熱ストレスや機械的過負荷、過酸化といったストレスも増加させます。これに対して筋はHSP72を増加させることが報告されています。我々はブピパカインという薬剤をラットの筋肉に注射して実験的に筋損傷を起こさせ、その再生過程を追いかけました。その結果、筋線維の再生より早い段階でHSP72の発現量の回復が見られ,その後筋線維の再生と類似した変化を示すことが分かりました。

 

▶成長期の運動・環境が身体と心と頭の発達に及ぼす影響

 


 

 下げ止まりの傾向が見えてきたとは言え、我が国の子どもの体力は昭和60年頃と比べるといまだ低い水準にあります。この背景にはライフスタイルの変容によって、運動や遊びの時間、空間、仲間の減少という状況があります。運動や遊びの減少は、コミュニケーション能力など心の発達に重大な悪影響をもたらす恐れがあるのです。
 
 大森研では平成19年度から東京都杉並区三谷小学校との連携により、「三谷サスケ体徳知育プロジェクト」を続けてきました。走・投・跳の運動指導や相互評価を伴う校庭遊具サーキットの導入などを行い、その効果を体力学的、心理学的、生化学的に判定しています。肯定的な相互評価を伴う校庭遊具サーキットは、子どもの運動有能感を高め、唾液クロモグラニンA(交感神経系ストレス指標の一つ)を下げました。これらの心理学的・生化学的効果が子どもの日常運動量にどのように影響し、体力にどのように影響するのか?また認知機能の発達にどのように関わるのか?さらに、長期的な効果はどのようになるのか?研究は進展を見せています。
 
 我々は「マナーキッズⓇプロジェクト」とも連携しています。礼法指導を伴うテニス教室が子どもの感情に及ぼす影響を検討した結果、1回のテニス教室によって子どもの感情が好転することが分かりました。マナーキッズⓇプロジェクトは平成16年度から始まっており、これまでテニスを中心としてサッカー、野球、ラグビーなどを含めて既に10万人を越える受講者を数えています。「マナーキッズⓇプロジェクト」の成果はさらなる大規模研究で検証していきたいと考えています。